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教師であり父でありApple好きな人が書くブログ

人はどのようにして記憶するのか『Learn Better』

学校は日々たくさんの知識や情報を生徒に与えています。

教育に携わる身として、この与えられた情報はどのようにして記憶していくのかについて、以前から興味がありました。

今日は記憶について、そして覚えるためには何が必要かについて書いていこうと思います。

2種類の記憶

短期記憶と長期記憶

ご存知の方も多いと思いますが、まずはこれについて話をしていきます。

記憶には、短期記憶と長期記憶の2種類があります。

短期記憶とは、保持期間が数十秒程度の記憶である。保持時間だけではなく、一度に保持される情報の容量の大きさにも限界があることが特徴とされる。

長期記憶は保持時間が長く、数分から一生にわたって保持される記憶である。短期記憶とは異なり、容量の大きさに制限はないことが特徴とされる。

参考記憶の分類

この辺りは皆さんご存知だと思います。

そして、2種類の記憶について大事な点があります。情報はまず短期記憶に入り、その一部が長期記憶へと移る、ということです。

つまり、長い時間覚えているようにするには、まずは覚えておきたいことを短期記憶へと入れる必要があるわけです。


人は短期記憶が苦手

短期記憶の特徴を一言で表すとしたら、「短期記憶は、入り口が非常に狭いトンネルのようなもの」と表すことができます。

短期記憶について抑えておきたい特徴は以下のものです。

  • 数十秒程度の記憶
  • 短期記憶の容量は小さい
  • 短期記憶に入ったものだけ長期記憶へとうつる

短期記憶の入り口は非常に狭いため、一度に多くの知識は短期記憶の入り口を通ることができません。Learn Betterではその例として電話番号について紹介されていました。

あなたにも経験があるだろう。人から自宅の電話番号を、例えば二三一・五五五・〇九一二などと教わっても、瞬時に忘れてしまう。せいぜい最初の三桁が記憶に残るくらいだ。

人は、長く覚えていることが苦手というよりも、頭に情報を入れることが苦手と言えます。

一方、長期記憶はむしろ覚えれば覚えるほど容量が増えていきます。

例えば、私たちは小さな子どもに比べて遥に多くのこと(歴史の年表や数式計算など)を覚えているはずです。


「短期記憶は長期記憶への入り口である」「その入り口はあまりに狭く、私たちはあらゆる情報をほとんど頭に入れることなく取りこぼしている」と言うことができます。


記憶するために必要なこと

時間をかけて繰り返し覚える

では、記憶するためには何が必要なのでしょうか?結論から言うと、「時間をかけて、何度も繰り返し情報に触れること」です。

忘却曲線という言葉を聞いたことがあるはずです。人は頭に情報が入ってから、曲線を描きながらものを忘れていき、復習することで記憶が強固になっていくというものです。(画像はWikipedia

ForgettingCurve.svg

ちなみに有名なエビングハウスの忘却曲線では、意味を持たない子音と母音の組み合わせをいかに記憶しているかという実験により得られた結果なので、相互に意味をもつ学習内容についてはもっと緩やかに忘却していくとも言われています。

先生方がよく言う「授業をして1時間経つと6割忘れる!」は、学習においては当てはまらないと思われるので、注意してください。


学校は圧倒的に復習が少ない

「時間をかけて、何度も繰り返し情報に触れること」が、覚えるのに必要なことでした。何度も言うように、情報は短期記憶の入り口を通って長期記憶に移りますが、まずはその短期記憶の入り口を通るのが大変なのです。

「私は覚えるのが苦手なんです」と公言する生徒は、覚えようとする機会が少ない場合がほとんどです。「私は」ではなく、「人は」なのです。一度や二度覚えようとしたからといって覚えられるほど、人の脳は賢くありません。

最近ではspaced repetition(間隔反復)やspaced learning(分散学習)という言葉をよく目にするようになりました。昔は五感を刺激して勉強しろ!と言われましたが、結局数回覚えようとしただけでは覚えられない現実を何度も突きつけられました。


さて、時間をかけて何度も繰り返し情報に触れることが覚えるのに必要なことだとすると、学校という場所においては非常に厄介なことが起きてしまいます。

学校は、圧倒的に復習する機会が少ないのです。

生徒は、教科書を使って毎日毎授業、新しい知識を詰め込むのに精一杯です。私たち教師も、教えることに忙殺されてついつい復習は生徒に任せて(押し付けて)しまっています。


昨日習ったこと、一週間前に習ったこと、1ヶ月前に習ったこと。これら雪だるま式に増える学習内容を復習するには、あまりに時間が少ないです。

とはいえ、「大変だから復習できません」ではあまりに乱暴です。少なくとも私たち教師が「覚えるには時間をかけて繰り返し情報に触れることが必要」ということをわかった上で授業するだけでも、多少変わってくるでしょう。

また、最近は生徒が教える活動も増えてきました。この活動の是非はともかくとして、この教えるという行動は、人が記憶するのに効果的に働くようです。教える際に、生徒は色々な情報を頭で思い出すことができるからです。

これからの学校では、デジタルツールも簡単に復習するツールとして活躍してほしいところです。スタディサプリやAnkiというアプリを使えば、一人一人に適した復習を自動的に行うことができます。これは今まで出来なかった学習かもしれません。


おわりに

今日の内容は、Learn Betterという本に書かれている内容をもとに書きました。

書いてあることは当たり前に感じるかもしれませんが、教育に携わる人間として読んでおいて良いと思われる一冊です。

独学大全もこのLearn Betterも、「これさえやればうまくいく」という妄言で誤魔化すことなく、はっきりと「そんなものはない」と明言することから始まるので好感が持てますね。この夏休みにぜひ。